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2014年6月19日 (木)

「インクルーシブ教育の推進について」質問しました。 

2014年6月定例会にて、「インクルーシブ教育の推進について」質問しました。(正式な議事録は議会HPをご参照ください。)
民主党県政クラブ県議団の堤かなめです。インクルーシブ教育の推進について質問いたします。

1.インクルーシブ教育の理念
はじめに、インクルーシブ教育の理念についてです。 インクルーシブ教育(包摂的教育)とは、障がいの有無などにかかわらず一人ひとりの多様な特性やニーズを考慮し、すべての人が教育から排除されることなく包摂される教育のことを言います。 インクルーシブ教育という考えが確立する以前は、先進諸国においても、障がいのある子とない子に対して別々の教育を行う、いわゆる「分離型」の教育が一般的でした。この「分離型」の教育においては、障がいを治療すること、障がいを少しでも軽減したり克服することが第一の目的とされていました 。 ところが、1980年代になると、欧州の多くの国で、この「分離型」からの脱却が進んでいくことになります 。そして徐々に、障がいの治療から、障がいをもつ子どもを取り巻く環境を整備することに力点がおかれるようになっていきます。 インクルーシブ教育へと舵が切られるようになった大きな転機は、今から20年前、1994(平成6)年にスペインのサラマンカで行われた国際会議において採択された「サラマンカ宣言 」であると言われています。この宣言は、障がいのある子どもだけではなく障がいのない子どもにもそれぞれのニーズがあり、すべての子どもたちのために学校を改革していく方法として「インクルージョン」「包摂」を基本に据えた教育の在り方を示したものです。 12年後の2006(平成18)年、国連総会で「障がい者の権利に関する条約」が採択され、障がい者の権利を認め、教育制度をインクルーシブにするという各国政府の義務と国際機関の使命が定められました。日本も同条約の批准に向けて2011(平成23)年に障害者基本法を改正し、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重する「共生社会」の実現を目的に掲げ、可能な限り最大限 、共に学べるように配慮しつつ、教育の内容や方法を改善し充実を図るなど必要な施策を講じることが、国・地方公共団体の義務とされました。 さらに、昨年(平成25年)6月には、障害者差別解消法が成立し、「差別的取扱い」、「合理的配慮の不提供」が禁止されました。そして9月には、学校教育法施行令が改正され、障がいの状態のみならず、教育上必要な支援の内容や、地域における教育の体制の整備の状況、本人・保護者の意向等を踏まえた「総合的な判断」により就学先を決定するしくみに改められました。こうして、ようやく日本でも、障がいの有無により子どもを分ける「分離型」からの脱却に向け本格的に動き出したわけです。本県教育委員会も、この改正を受け、本年(平成26年)3月に、「障害のある子どもの教育支援と就学事務の手引」を発行しました。つまり、城戸教育長は、このような教育史上の大きな転換期に、新しく教育長に就任されたということになります。 そこで小川知事と城戸教育長にお伺いします。インクルーシブ教育とは障がいをもつ子どもだけでなくすべての子どものニーズに応じた教育的支援を充実させるという観点に立つとすれば、それは通常教育をも巻き込んだ教育改革、教育全体の改革でなくてはならないとされています 。知事と教育長は、インクルーシブ教育の理念についてどのように認識されておられるのかお聞かせください。

2.小中学校におけるインクルーシブ教育  
次に、小中学校におけるインクルーシブ教育についてです。 正直なところ、私自身すこし前まで、インクルーシブ教育の理念は確かに素晴らしいけれども、ほんとうにこの日本で、この福岡で、はたして実現可能なのだろうか、ハードルが高過ぎるのではないかと思っていました。また、心のどこかで、障がいをもつ子どもにとっても、授業についていけない通常の学級で過ごすよりも、その子にあった授業を手厚い体制で提供できる特別支援学級や学校のほうが良いのではないかという思いがあったのも事実です。しかし、我が会派の代表質問で取り上げました『学びの共同体 』や『学び合い 』といった教育改革が成功しているところでは、通常の学級が変わることでインクルーシブ教育が大きく進展するということが実感としてわかるようになってきました。 上越教育大学教職大学院教授の西川純氏は著書の中で、『学び合い』で通常の学級がどう変わるかについて言及しています。西川氏の文章を、少し長くなりますが引用させていただきます。

自閉症、アスペルガー、学習障がい、ADHD・・・といった障がいは、一人ひとりの持つ特性が違い、一人ひとりへの対応が違います。教師が数冊の本や、数回の研修を受けたからといって専門家のような対応はできないのは当然です。しかし、『学び合い』は、特別支援の子どもの存在を、教師・クラスメートが気にならない状態にすることができます。さらに、特別支援の子もそうでない子も心地よく日々を過ごすことができるようになります。 人の相性は不思議なものです。教師がどんなに本を読み、研修を受けても関係が結べないような子どもであっても、何故か関係を結べてしまう人がいるものです。その人がクラスでたった1人の教師である可能性と、数十人の子ども達の中にいる可能性とではどちらの方が高いでしょうか? 相性はどうしようもありません。教師が関係を結べなくても、その人の能力が低いわけでも、ましてや努力が足りないわけでもありません。特別支援が問題になるのは、できる確証もなく教師がひとりで抱え込んでいるために生じます。『学び合い』では「クラス全員」で支えます。さらに言えば、特別支援の子を見捨てないクラスにおいては、他の子が自分も切り捨てられないという安心感を得ることができます。 また西川氏によれば、「学び合い」は、特別支援の子を見捨てないというだけでなく、子ども同士の関係が改善し、不登校がなくなっていき、成績が上がる。成績が上がるのは、わからないまま教師の話を黙って聞いているよりも、「わからないから教えて」とわかるまで友達に聞けるほうが、圧倒的に理解が進むからだとのことです 。

西川氏が提唱する『学び合い』を県内で実践されている先生方に、通常の学級でインクルーシブ教育をどう実現したらよいかについて、直接お聞きしましたところ、答えは意外にもシンプルなものでした 。「特別なニーズをもつ子どもがどうすれば理解できるか、子どもたち自身が見つけてくれる」「子ども同士が、関わり合いの中から、算数がなかなか出来るようにならないこの子にはブロックを使うと良いなど、みんなで考えて、解決するから心配ない」「そうやって、クラス全員が助け合って、成長していく姿を見ていると、感動して涙が出る」「こういうことは、これまで時々行っていた交流授業では決してみられなかった」など次々に話してくださり、なるほどそうなのかと、ようやくインクルーシブ教育の本質が少しわかったような気がました。 もちろん、重度の障がいをもつ子どもや保護者の方が、通常の学級より特別支援学級や学校が良いと考えることもあるでしょう。しかし、教育行政は、障がいをもつ個人が、自身の住んでいる地域社会の教育機関で、一人の市民として、当たり前に学べるよう条件整備をしなければなりません。 そこで、城戸教育長に、小中学校におけるインクルーシブ教育について3点お伺いします。

1点目に、学籍の一元化についてです。現行の制度では、特別支援学校に通う子どもの学籍はその特別支援学校に置かれるため、たとえば「せめて入学式・卒業式などの学校行事だけでも、近所の子どもたちと一緒に地域の学校で参加させてほしい」といった子どもや保護者の切実な願いがなかなか叶えられないということも起きています。インクルーシブ教育の理念にしたがえば、地域の子どもの学籍は、すべて地域の学校に置き、特別支援学校や学級に通う子どもは、そこに副籍を置くようにすべきと考えますが、この点につきまして教育長のご所見をお聞きします。

2点目に、少人数学級の実現についてです。文部科学省が実施した「今後の学級編成及び教職員定数に関する国民からの意見募集 」では、約6割が「小中学校の望ましい学級規模」として、26人~30人を挙げています。 ところが、我が会派の代表質問で指摘しましたように、本県の本務教員一人当たりの児童生徒数は47都道府県のうち40位、全国ワースト8位 。子ども一人ひとりの多様な特性やニーズにきめ細かく応えていく、インクルーシブ教育を推進するためにも、より少人数の学級編制を実現することが重要です。また、『学びの共同体』『協調学習』『学び合い』などの教育改革の効果を高めるためにも、そして全国平均よりかなり高い不登校児童生徒率、全国の中でも低位にある学力を向上するためにも、できるだけ少人数で学級を編制すべきであり、県からも国に対して、予算措置をはじめとする条件整備について、積極的な働きかけを行われるよう強く要望すべきと考えますが、教育長のご所見をお聞きします。

3点目に、特別支援教育支援員の拡充についてです。OECD諸国並みの少人数学級がいまだ実現されていない現状では、支援員の配置によって、支援を必要とする子が学級の中で育つことができ、教員が子どもと向き合う時間を確保するための大きな助けとなっています。 本県では、公立の小中学校1097校に1550人、1校あたり1.4人の支援員が配置されています。しかし、現行の支援員は、あくまで「現在普通学級に在籍する子」、主として発達障がいに対応するものとなっており、サラマンカ宣言でいうところの「すべての障がい」に対応したものとはなっていません。この意味でも支援員のさらなる拡充は重要です。通常の学級を、様々なニーズをもつ子どもにとって居場所がある学級にするため、支援員を早急に拡充するよう、国への要望や市町村委員会の指導などの手立てをすべきと考えますが、教育長のご所見をお聞きします。

3.県立高校におけるインクルーシブ教育  
最後に、県立高校におけるインクルーシブ教育についてお聞きします。 県立特別支援学校高等部は、県下の14校に設置されており、そのなかには軽度の知的障がいの生徒を対象とした高等学園2校も含まれています。しかしながら、いわゆる軽度の発達障がい等をもつ生徒の受け皿はほとんどなく、県立高校への進路保障は、事実上閉ざされてきたといっても過言ではありません。 そこで、城戸教育長に3点お伺いします。

1点目に、県立高校受験における合理的配慮についてです。 発達障がいをもつ中学生の保護者の方から、「うちの子は勉強が大好きで、毎日とにかくよく勉強するんです。それなのにペーパーテストになると緊張して力が出せない。とても受験できるような状態ではありません。中学のお友達はみんな高校に進学するのに、うちの子は高校へは行けないのでしょうか?」と切実な思いを打ち明けられたことがあります。 福岡県でも、別室受験・時間延長・器具の持ち込みなど、県立高校の入試の際に合理的配慮を行っています。このような配慮が可能であることを、その保護者の方にお伝えしますと、顔がぱあ~と明るくなり、「そんなこと全く知りませんでした。そうなんですね。よかった~希望がわいてきました!」とほんとうに嬉しそうでした。 現状では、「盲」「聾」「肢体不自由」等に関しては、配慮の方法がある程度確立しており、その周知についてもかなり浸透している状況です。しかし、発達障がいについては、個に応じた合理的配慮についての具体策が確立されておらず、そのため、入試の際の合理的配慮の対象となりうるのかどうか不明確で、制度の周知もほとんどなされていません。 まずは、県教委として、これまで、どのような困難がある場合にどのような個別の配慮が受けられてきたか事例を収集し情報を公開するなど、わかりやすい形で保護者や教職員に情報提供を行う必要があります。次に、たとえば中学入学時に保護者への説明会を行うなど、なるべく早い時期に周知すべきと考えますが、県立高校受験における合理的配慮について今後どのように保護者や教員への情報提供や周知をはかっていかれるのか、教育長のお考えをお聞きします。

2点目に、通常の学級における合理的配慮についてです。 全国的に、特別支援学校高等部への入学希望者が増えており、教室不足や過密化が深刻となっています 。特別支援学校の大規模化や狭隘化の解消も喫緊の課題ですが、何にも増して、障がいをもつ子どもが、地域の人たちや同世代の友人と共に、学び・生活していくことができる環境を高校段階でも保障すべきです。 先に述べましたように、小・中学校の特別支援教育支援員については、2007(平成19)年度から国による地方財政措置がなされるようになり、全国的に配置が進んできています。高等学校についても、2011(平成23)年度から国により地方財政措置が始まり、本年5月1日現在、全国で483人が配置されていますが、本県においてはいまだ一人も配置されていません。 県立高校に特別支援教育支援員を配置することで身近な県立高校の通常学級に通えるようになれば、移動に困難を抱える障がいのある生徒の通学負担の軽減にもつながります。県立高校の通常の学級でも、支援員の配置などの合理的配慮が必要と考えますが、教育長のご所見をお聞きします。

3点目に、通信制・定時制課程における支援体制の整備についてです。一昔前までは、定時制に通う生徒の多くは、仕事と学習の両立を目指す勤労高校生が大半でした。しかし時代は変わり、発達障がいをもつ生徒や、人との関わり合いが苦手な生徒など多様な生徒が通っています。通信制や定時制の学級をインクルーシブにするため、どのような支援を行っているのでしょうか。また今後、より手厚い支援体制をつくっていく必要があると考えますが、教育長のご所見をお聞かせください。 以上、小川知事、城戸教育長の誠意と情熱あふれるお答えをお願いいたします。

【知事の答弁】 インクルーシブ教育の理念は、障がいのあるなしにかかわらず、すべての人の多様な特性やニーズを尊重した教育の提供を意味するものであると認識しています。「障害者の権利に関する条約」の批准に向けた国内法の整備のため、平成23年8月に「改正障害者基本法」が制定されたことにより、我が国でもインクルーシブ教育が位置づけられたところであります。今後「改正障害者基本法」に基づく施策が総合的、計画的に推進されることにより、インクルーシブ教育が普及していくものと認識しております。

【教育長の答弁】 すべての子どもが、お互いの個性や違いを認め合うことを学び、障がいのある子どもが自立と社会参加に向けた力を身に付けるという目的に向けて、障がいのある子どもと障がいのない子どもが共に学ぶことをめざすべきであるというものと認識しています。 学籍の一元化については、障がいの状況等に関わらず、すべての子どもの学籍を地域の小中学校に一元化することは、法令等の改正が必要であると考えています。現在、本県では、インクルーシブ教育の理念を段階的に実現していくための事業の一つとして、特別支援学校の子どもが、地域とのつながりを持つことができるように、自分の住んでいる地域の小・中学校の学校行事や教科学習に参加する、居住地校交流事業を実施しています。 少人数学校の実現については、現在、全ての公立小学校において、小学校1年生及び2年生で35人以下の少人数学級を実施しています。また、その他の学年についても、国の加配定数などを活用して、市町村の主体的な判断により、少人数学級が実施できるよう、制度を弾力的に運用しているところです。これにより、本年5月1日現在の少人数学級の実施割合は、小学校で91.1%、中学校61.1%となっています。今後も引き続き、子どもたちの実態や地域の実情に応じ、柔軟な学級編制や教員配置ができるよう努めるとともに、小中学校の全ての学年で35人以下の少人数学級が実現できるよう、義務標準法の改正について、国へ要望してまいりたい。 特別支援教育支援員は、学校において、教室の移動補助等の日常生活上の介助や発達障がいの子どもの学習支援等を行うものであり、その配置に係る経費は、国が市町村等に対して地方財政措置を行っています。今後とも、特別支援教育支援員に係る地方財政措置の拡充を国に要望するとともに、子どものニーズに応じて、配置を進めていくように市町村に働きかけてまいります。 県立高校受験における合理的配慮については、制度の詳細を入学者選抜要項等に記載し、例年10月下旬に実施している説明会において、中学校の校長や教員に対して周知するとともに、県ホームページにも掲載しています。今後は、こうした受験上の配慮事項など、進路選択にかかわる基本的な事項については、具体的な事例の例示も含め、中学1、2年生及びその保護者にもできるだけ早く周知されるよう、中学校に要請してまいりたいと考えております。 発達障がいなど特別な支援を必要とする生徒に対する指導体制の整備は、高等学校教育における重要な課題と認識しております。このため、すべての県立高校に特別支援教育に関する校内委員会を設置し、コーディネータをーを任命しております。この行内体制の下、支援を必要とする生徒一人ひとりに対応した「個別の教育支援計画」を作成し、きめ細かな指導を行っており、特に個別の補助を要する生徒に対しては、特別支援教育ボランティアの配置を行っております。今後とも、支援員配置の必要性を含め、発達障がいのある生徒等への適切な支援の在り方について研究してまいりたいと考えております。 定時制・通信制課程は、修業年限や授業の時間帯、履修科目の選択等の面で、全日制課程と比較して弾力的であり、多様な学習ニーズに応じた柔軟な教育機会を提供しております。こうした学習環境の下、発達障がいのある生徒を含め、義務教育段階の学習内容が十分でない生徒などを対象に「学び直し」の講座を設けるなど、個々の生徒に応じた指導に力を入れています。併せて、定時制課程の教員の専門的教育相談能力の向上を目的とした研修を実施しているところであり、今後とも、これらの取組みを継続しつつ、定時制・通信制課程における支援体制の充実を図ってまいります。

【要望】  ご答弁いただき、インクルーシブ教育についての認識や今後の方向性について、小川知事、城戸教育長と共有することができたように思います。最後に、少しくどいようではありますが、要望を述べさせていただきます。 いまの日本の現状では、障がいをもった子どもたちは、別の教室、別の校舎、別の学校で教わることのほうが一般的です。したがって、通常の学級に通う子どもたちは、日常生活の中で、障がいをもつ人と触れる機会のないまま大人になってしまいます。その結果、障がい者に対してどのように接したらいいのかわからない大人ばかりで社会が出来上がってしまい、そのことが障がい者の雇用や社会参加を阻害する要因の一つとなっていると考えます。 日本はいまや、世界で最も高齢者の比率が高い国であり、この後、人類がいまだ経験したことのない超高齢化社会に突入していくことになります。つまり、支援が必要な多くの人々と共存・協力しなければ社会が成り立っていかない時代がやってくるということです。 この国の将来を切り開くためにも、子どもたちが互いを助ける方法や態度を学校生活のなかで身につけることが、何より大切だと考えます。また、他者との関係が希薄になりつつある現代では、他者を尊重し、他者とつながりを深める教育こそ必要で、今の時代に欠かせないものです。そのためにも、知事そして教育長におかれましては、障がいをもつ子どもなど、多様な特性をもつ人が同じ空間に当たり前に存在することで、幼い時からそうした意識や態度を自然に身に付けることができるインクルーシブ教育を強力に推進していただきますよう、心からお願い申し上げ、私の質問を終わらせていただきます。

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